■ダイニー アリスインタビュー■

ALICE Interview の姉妹ページです。
<< April 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
ゴキブリコンビナート第31回公演『ゴキブリハートカクテル』(2015年2月12日15日)

Dr. エクアドル
劇作家、演出家、俳優
ゴキブリコンビナート 主宰

1966年、福島県生まれ。1990年に黄金劇場で初舞台。以後、数々の演劇公演や舞踏公演を経て、1994年、ゴキブリコンビナート旗揚げ。脚本、演出、俳優、作曲、美術製作、宣伝美術など、すべてのスタッフワークを受け持つ。下品、残酷、悲惨なモチーフを、型破りな独自のエンターテイメントに仕立てる手腕は、多くの熱狂的なファン(と同時にアンチ)を生み出している。劇場以外でのパフォーマンス活動やアイドルグループ(BBG48)のプロデュースなども精力的に展開。現在、野外公演のための会場を絶賛探索中。
http://www016.upp.so-net.ne.jp/goki-con/



中野にほど近い私鉄沿線の喫茶店。約束の時間をほんの少しまわってその人物は現れた。ゴキブリコンビナート主宰のDr.エクアドル氏である。ゴキブリコンビナートの主宰にして、作・演出・出演はもちろん、振付・美術・作曲などあらゆるスタッフワークも手がける同氏。「下品の極北」とも、「小劇場界のマンソン住血吸虫」とも呼ばれる劇団の心臓(ハート)に、最新作『ゴキブリハートカクテル』についてお聞きした。
 

--はじめまして。今回もアリスフェスティバルでの上演ですね。今回の『ゴキブリハートカクテル』なんですが、もう台本は出来上がっているんですか?
(※注:インタビューは公演前の1月下旬に行なわれた)

Dr.エクアドル(以下、Dr.) いや、まだ構想段階ですね。けっこうお芝居の稽古だけじゃなくて、他のことも考えていかないとなんで。面白いストーリーを思い付いたから……っていうわけじゃないので。そっちの構想のところで、けっこうまだ未定なところがいっぱいありますね。これからスゴいスピードでいろいろ決まっていくんですけど(笑)。


--今の段階でこうしたいと考えてられることってありますか?

Dr. 当初からの予定ですし、ここ2、3作の路線なんですけど、順路形式というか、お化け屋敷形式。お客さんが移動しながら次のシーン、次のシーンへと進んでいく。お客さんを一気に集めて、そこで同じ時間軸で次のシーン、次のシーンと観せていくんじゃなくて、お客さんが移動しながら、シーンからシーンへと移っていく。その中でお化け屋敷的な、お客さんを驚かせる仕掛けがあるという感じです。


--今回は「アトラクション演劇シリーズ第三弾」ですが、そもそもこの形式はどうやって思いつかれたんですか?

Dr. もともと順路になる前から、たとえば着ぐるみが出てきたりだとか、重機が出てきたりするもそうですけど、五感で受け止めてもらえる演劇をやろうとか、なるべく距離を縮めて空間を共有しているという意識を強く感じてもらおうとか、そういう気持ちの中でつくってきたので、行き着く先として必然かなと思うんです。

 それと今はそんなに行かないですけど、実際に遊園地とかに行くと、ディズニーランドみたいにコンセプトをちゃんとつくってある遊園地というのは、たとえばジェットコースターひとつ乗るにも、何かストーリーが進行していくんですね。「スプラッシュマウンテン」だと落ちる前に登っていくんですけど、その間にお話がいろいろと展開していく。そういうのが単純に面白いなぁと思っていたというのがあります。


--五感で受け止めてもらえる演劇……もう少し詳しくお話しいただけますか?

Dr. でも、自分が客というかユーザーとして観たりするのは、もともと平面的なものが好きなんですよ、割と。演劇とかを観ていると、平面としての力っていうのは絶対的に弱いんですよね、映画とか漫画に比べると。平面でいうとかなり制約の大きい、なんというのかあまり能力の高くない表現形式だと思うんです。だけど何でみんな観に行くかというと、やっぱりひとつの空間を共有しているとか……なんだろ、実際は平面じゃないところ、そういうところでみんな観に行っているんだろうと思うんですよね。

 たとえば面白いんですけど、基本僕は裏方なんでそういう見方をしていると、スタッフワークっていうのが熟練していけばいくほど、平面として上手に見せるというところに熟達していくんです。シーンを切り替える時に、すごく上手い劇団とかは紗幕を何層も使って照明をパッと切り替えると。今まで家の中だったのが野外になったり。技術力がついてくると、そういうことをやり出すんですよね。どんどん平らになって奥行きのない……いや、一概には言えないんですけど、もちろん立体化の工夫もあるんですけど彼らの中には。

 それで、何で大手の商業的なものが維持されているかというと、多分それはスターの力なんです。今の世の中おそらく。だからスターとかいうところじゃない出発点。別にイケメン集団でもない僕たちがやるべきことはそれじゃないだろうと。スターだったら別に豆粒のように見えていても「あ、いる!」っていう同じ空間の中にいる意味が大きいと思うんですけど、誰だか分からない人間がポーンと出てきて、それで何か強い印象を与えるには、やっぱりどんどん平面に持っていってもダメだろうと思うんです。

 ただ一方で面白いのは、劇団四季ってスターがいないじゃないですか。たとえばテレビに出ているような有名なタレントって出演していないでしょ。そういうところって、装置とか見ると立体的な……今しゃべってて気づいたんですけど、やっぱりセットが大掛かりになるなり方が、遊園地的なものになってきますね。


--「遊園地的」はキーワードですね。他には、表現に関してどういうものに影響を受けているのですか?

Dr. 空間とかの使い方でいうと、自分が客として観た中で大きなヒントを得たのは、「ラ・フーラ・デルス・バウス」ですね。スペインのダンスのグループなんですけど、客席と舞台がないんですよ。基本はダンスなんですけど、客の中に分け入ってチェーンソーを振り回したりする人たちで(笑)。

--今、劇団員は何名くらいいらっしゃるんですか?

Dr. それが今……ヤバくてですね。なんか分かんないですね。劇団を一緒に始めた竹田という男がいるんですけど、竹田とかも2年くらい休むんですよ。他にもこの人はもう去っていったのかな?って思っているとまた現れる。それでまた次回はいないんです。

 なんていうんですかね、OB気分というか……けっこう古くから劇団を支えてくれているような、もう10年以上の付き合いになる人たちっていうのは5、6人いるんですけど、気まぐれ参加(笑)。でもその人たちならば、これなら任せられるみたいな技術は持っているし、この人はこういう芸風っていうのも分かっている。だから気まぐれOBでも、じゃ今回お願いします……みたいな。そういう……感じですね。

 これは僕の悩みですけど、しっかりとした中堅みたいな人がいなくて、その都度集まってくる古株と、何だか分からなくて来てしまった新人的な人たちの中でやっています。だから次の本公演8、9人くらいが出演者なんですけど、初めて出る人が2人います。


--新人的な人たちはオーディションとかされるんですか?

Dr. しないです。まだ会ったことない人もいるんで……。なんか四国から2月4日に着きますって言ってたから。


--どうやって出演が決まったんですか?

Dr. ツイッターです。だからあまり信用してはいけないというか……。でもなんか逃げますね、大概そういうので来た人とか、若い子とかが来ると。ちょっと稽古場に1回か2回来て「……思ってたのと違う」みたいな。つくっていく過程とか、それはそれは地味ですし……。


--つくっていく過程はどのような感じなんですか?

Dr. 作品は派手にしようとしているから派手ですけど、つくっている過程はジャージを着たおじちゃんが、ボソボソしゃべって体操みたいなことをしているだけだから(笑)。

 稽古もそうだけど、仕込みもひたすら地道なことの積み重ねなので。あとなんだろう、舞台上では乱暴者だけど、基本普段からパンクスみたいな人っていうのはうちの場合はいないんです。みんな何かうつむきがちな草食系みたいな人たちが稽古場にはいるので。

 作品を観て「あぁこの人たちと一緒にやりたい!」って思った人の何割かは、それを見てガクっとなるかもしれない。それはでも演劇に限らずそういうギャップってあると思うんですけどね。


--ゴキブリコンビナートというと、みなさん臭いのことを言われると思うんですけど……

Dr. 臭いはですね……五感とはいいつつも、臭いは意図せざるものなので、いつも申し訳ないなぁと。臭いまで味わわせようとは思っていなくて、臭いはなるべく出さないようにしてはいるんですが……結果的に出てしまっています。

 だから納豆は2013年? (『こんにちは赤ちゃん』での)納豆の時も、観に来るつもりでタイニイアリスの前まで来たのに、今回のは特に臭そうだといって帰っちゃったお客さんもいたりして……もう納豆はやめようと思いましたね。とにかく納豆は大変で、納豆じゃなくて板、つまり納豆をぶちまけられた壁の方を産廃業者へ持って行った時に、産廃業者がものすごく嫌な顔をして……。住宅街にあった産廃業者へ持って行ったからかもしれないけれど、ものすっごく嫌な顔をされて……産廃業者に引き取ってもらえなかったらどうしようと(笑)。


--今回の公演は、臭いについてはどうなりそうですか?

Dr. だけど、たとえば納豆もやってみないとですね……。ドラム缶の中に納豆を入れてたんですけど、当日は納豆だけの臭いなんだけど、2日目くらいから臭いが変わってきたんですよね。分かんないじゃないですか、元々発酵食品だから。腐ってるものだからずっと納豆の臭いかなって思ってて……でも実際には臭いが変化してて(笑)。いろいろと未知数は多くてですね、分からないんですよね。稽古場でシミュレーションできないことがいっぱいあって。

 だから意外に臭くないなって時もあるし、予想もつかない臭いが充満する時もあるし……。臭いは不可抗力。別にねらってないです。むしろ臭いはいい匂いにさせたい。目はどぎついもの、匂いはいい匂いでそこで癒されてもらいたいけれど、なかなかできないですね。


--何か使ってみたい素材などはありますか?

Dr. コールタールも一回やってみたいですね、今回はやらないだろうな。でも油は集めてみたい。原油とか見たことないから、どういう感じなんだろう……手に入らないですよね。あとは今回やるか分からないけど……連想でしゃべっているからあれですが、ぬかるみもやってみたいです、泥とかでいいんですけど。ゲルとかはやっているんですけど、ぬかるみはやったことがないです。


--筋自体にもテーマってあるんですか?

Dr. 仕掛けから入るんで……何でしょう。でもあれですね、人間関係のもつれが、家族なのか夫婦なのか恋愛関係か分からないですが、そういった関係が不安定になると感情がものすごく揺れ動いて、誰かを殺したくなったり、痛めつけたくなる衝動に、人間は駆られてしまうかもしれない。たぶん、すごくおおまかなことしか言えないですけど、そういうストーリーが展開していくだろうと思います。


--下ネタであったり、身体障害であったり、病気であったり、社会の最下層で虐げられている存在であったり、そういうモチーフがかなり取り入れられていると思うんですが、何か既存の社会へのアンチテーゼのようなことは意識されているのでしょうか?

Dr. そうですね。今はそれほどではないですが、バブル……僕の青春時代っていうとバブルなんですけど。バブルの後、たとえばドラマでいうとトレンディドラマとかはバブルの後もしばらく続くんですけど、ああいうものっていうのは基本的に……たとえば今回のチラシのネタにしているわたせせいぞうでもそうですけど、「ちょっと上」。なんていうか……憧れるライフスタイルにほど近い、庶民の皆さんのちょい上くらい……。もうちょっとで届きそうくらいの生活の中でドラマが展開していくと、何か食いついてくるんだそうです。「だそうです」というのは僕もそう思ったんだけれど、あるドラマの有名な作者がインタビューで答えてたんで、その通りだなぁと。

 そういう時代の風潮……今じゃないんですけど自分が始めた頃、そういう風潮に対してアンチを投げかけたいと。やっぱり、たとえば自分の中学時代、高校時代とか考えると、クラスを仕切っているのはヤンキー。大多数はヤンキーではないんだけど、でもどことなく基本ヤンキー。そういう中で育ってくると……また僕の父親なんかは農家の子だくさんの末っ子で、自衛隊だったんですけど、基本ガテン系です。目の前で展開しているそういった現実っていうのは、テレビドラマと……当時ですけどね、わたせせいぞうさんのイラストで展開しているような景色と比べると、もうちょっと見すぼらしくて、あまり品が無くて。そういうものが満ち溢れているだろうと。

 だからそういうトレンディドラマとかつくっている人たちが、なるべく排除しようとしている要素を、日常的でありながらなるべく夢を見るために意識から排除していきたいものをかき集めて、喉元に突き返すことで何か成立しないかなと。うっとりさせるものがもてはやされる風潮にアンチを投げかけて、もっと身近で生々しいものを題材につくっていきたいというところです。だけど、何かそういうものに目を向けないような力が働いているから「いや、現実はもっと溢れているよ」というのをちょっと誇張した感じですね。


--最後に今回の公演への意気込みをお願いします。

Dr. じゃあ……思う存分やらせていただきます。小屋のメンテナンスを気にせず(笑)。


 こちらの質問に対して、噛みしめるように訥々と言葉を口にする姿がとても印象的だった。一見すると出禁劇場多数と言われる過激劇団の主宰者とは思えない。しかし、その言葉に耳を傾けると、やっぱり「ゴキコン」の主宰者である。タブーへの偏愛、安心と自由の狭間での葛藤、失われゆく都市の隙間……。ここには載せきれなかったが、どこか冷めながらも決してそらすことのない社会への目線と、そこから生まれる鋭利な洞察や葛藤の数々。ただし、芝居の会場に入った瞬間に氏のそんな姿は忘れてかまわない。たぶん……きっと。ゴキコンの芝居は、感じることからすべてがはじまるのだから。

 最後に宣伝をひとつ。なんと今春、タイニイアリスがオープンしてからの32年が一冊の本になる。書名はずばり、『小劇場タイニイアリス?ここは演劇の不思議の国』。芸術新聞社から刊行予定である。先にも触れたここに載せきれなかった話題やDr.エクアドル氏が演劇を志した経緯などもインタビュー記事として収録予定。ゴキブリコンビナートファンはもちろん、小劇場ファン必携の一冊になること間違いなし! と大見得を切ってみる。書店でお見かけの際は、ぜひお手にとって、そのままレジへ……

(インタビュー・写真・構成=沼上純也)

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.